司法試験向け「強制処分」に関する注意

司法試験向け「強制処分」に関する注意

昨日,強制処分の規範定立に際して理由付けが必要かという質問に関連して,いくらかの議論がありましたので,ついでですからいくつか受験生がエラーしやすい点について注意喚起をしておきます。

(本当は,判例時報1月号の笹倉・山本・山田・緑・稻谷座談会を読んで貰うのが一番なんですが,受験生にその要求は酷かなと…。)

なお,以下の説明は重要権利利益侵害説を前提とします。

(最近,田宮説で力業で書くのが試験的には楽なんじゃないかという気がしていますが。)

強制処分の規範定立に理由が必要か

なぜこのような質問が発生するのか理解に苦しむのですが,強制処分の意義について解釈の余地がある以上,一般論として,規範定立に際して理由を述べるべきというは,実定法解釈学として当然のことです。

試験対策という観点で見たときも,平成27年の出題趣旨で,

本設問の解答に当たっては,強制処分法定主義,任意処分に対する法的規制の趣旨を踏まえつつ,前記昭和51年最決の判示内容にも留意して,強制処分と任意処分の区別の基準や任意処分の限界の判断枠組みが検討・提示された上で,【捜査①】及び【捜査②】の各適法性について,設問の事例に現れた具体的事実がその判断枠組みにおいてどのような意味を持つのかを意識しながら,論理的に一貫した検討がなされる必要がある。

と述べられおり,「区別の基準」を「提示」するだけではなく,「検討・提示」することが求められているのですから,そこに結論の「提示」以外の「検討」論述,すなわち理由が必要とされていることになります。

GPS大法廷判決による強制処分の定義

従前,試験用論証としては「(意思に反する)重大な権利・利益を侵害する処分」等の定義がなされてきたところですが,最大判平成29年3月15日において「(個人の意思を制圧して)憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」処分との定義が示されていますので,これによるのが良いでしょう。

「重要」とは何か

「重大な権利・利益を侵害する処分」という定義を示しながら,規範定立時に論証がない,あるいは論証していても理解が不十分であるために,「重要」な権利・利益とはの判断が場当たり的な答案が多数ありました。

 

この点,私の講義では,強制処分に関する昭和51年決定(百選1事件)が言う「身体・住居・財産等」の例示は,「身体」の部分について憲法33条・34条の人身の自由に対する保護,「住居・財産」の部分について「住居・書類・所持品」の捜索・押収に対する保護の言い換えであるから,これらあるいはこれらに匹敵する憲法的保障を受けるべき場合を重要と言うという説明をしてきたところですが(松尾先生の基本権説明を試験に適用可能な形に改変したもので学問的正確性は二の次でしてきた説明ですが。),この点に注意を払う答案は依然として少ないように思います。

「憲法の保障する重要」性である点に注意して論述・あてはめするようにしてください。

あてはめが類型論であること

強制処分か否かの判断に際して,当該事案における権利侵害を詳細に検討して,結果的に侵害の程度が小さいので強制ではないとの結論を出す答案がしばしば見られます。しかしながら,強制か否かの判断に際して当該事案における権利侵害を検討することは正しくありません。

強制処分法定主義および令状主義の機能に立ち返って考えてみましょう。

強制処分と判断される場合,強制処分法定主義の規整を受けるとともに,一般的には令状主義の規整をも受けることになります。

したがって,捜査機関としては,これらの制限に反する可能性がある処分を行うことは差し控えるか,刑訴法の規定に則りまた令状を得て行うこととなり,これによって権利保障がはかられます。

ここで,事後的に憲法の保障する重要な法的利益を伴う侵害がないから適法であるという判断をすることは,強制処分法定主義および令状主義の捜査機関に対する事前警告の機能を無視することになります。

したがって,強制処分か否かのメルクマールである憲法の保障する重要な法的利益の侵害であるかの判断に際しては,当該事案における結果から離れて,採られた捜査手段から一般的に生じうる権利侵害を検討と対象とする,仮定的類型判断をしてください。この点の判断の方法については平成21年のX線に関する決定が参考になると思います。

(夕飯の時間になったのでおしまい)

コメントとかリプライを見ていての補足

有形力行使でない強制処分に昭和51年決定が適用可能か

別の規範によるべきとの見解もありますが(川出「判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕」が比較的丁寧にこの見解を説明しています。),GPS大法廷判決が規範を示すに際して昭和51年決定を参照していることから,最高裁としては有形力の行使類型であるかそれ以外であるかによって規範を分けていないと評価できる状況であり,少なくとも出題趣旨等を見る限り試験レベルでは同一規範で足りると考えています。

余力のある受験生は分ける見解にトライしてみても良いでしょう。判例操作の作法を学ぶには良い題材だと思います。

昭和51年決定は重要な権利利益侵害をメルクマールとする見解であったか

現在,多くの受験生が強制処分の定義について,重要権利利益侵害説を採用しており,最高裁昭和51年決定は同見解によったものと学習しています。しかし,この説明自体,複数あり得る中の一つの見解である点に注意してください。詳細は法律時報1月号の座談会60頁以下を参照していただくとして,概要は次のとおりです。

昭和51年決定は,その文言上,「意思の制圧」に至っているか否かを中心的規範としていると読むのが素直である。仮に強制処分か否かを重要権利利益侵害説(「権利ドグマティーク」)によって判断しているのであれば,身体・行動の自由の制約の大小を理由として述べることになるはずだが,同決定は大要,「説得」であるから強制処分ではないと判示しているからである。また,香城調査官による解説も権利論によっていない。しかし,「強制」という言葉にこだわるあまり実質的に見て立法を要するはずの捜査活動を「法定主義」の埒外に置く結果が是認されかねない,全事情を総合考慮した結果として「相当」と評価できれば適法とされかねないといった状況があり,学説は,同決定を重要権利利益侵害説(「権利ドグマティーク」)によって読み替えることで,理屈で捜査を規律できる理論体系を作り出した。

でも,試験的には気にしなくてOK。

本記事の構造について

冒頭で「いくつか受験生がエラーしやすい点について注意喚起」と述べたとおり,順をおった項目立てではなく,思いついた順に各ポイントについて解説しているだけですので,各項目の前後に論理的な意味はありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。